"眠り"から目覚めて、最初に、愛しい人の姿を見ました。 「大丈夫!? 生きている!? …良かった……人がいた」  わたしは、愛されると愛してしまいます。  わたしは、愛されない存在でした。気弱なわたしは、皆に貶されて生きてきました。  愛してくれたのは、世界に二人だけでした。だからこそ、わたしは――愛を受けると、愛で返し たくなります。  見捨てられたくないから。  わたしをこれまで愛してくれたのは、世界で二人だけです。  一人は、わたしの夫。優しいひと。たくさん、愛してもらいました。  そして、もう一人は―― 【ドラセナ】  過去は、思い出さないようにしてきました。  わたしは、生まれ変わりたかった。優しい夫と、毎日楽しく、笑顔で生きていきたかった。ドレ スを解いて服を縫い、掃除をして、夫の獲ってきた魚で食べ物を作って……  永遠とも思える、時でした。  ――けれど、わたしは、知っていました。  わたしは人間ではないということ。それは、消し去ろうとしても、どうしても消し去ることの出 来なかった、悲しみ。  夫は、わたしを抱くと、必ず「暖かい」と言ってくれました。わたしが人間ではないことに、早 い段階から気付いていたであろうにも関わらず。わたしは、夫の倍の体重がありました。何度も抱 き上げようとしてくれたものの、叶うことはありませんでした。  人間ではないのに、それを態度には出さず、"女"として、"人間"として、愛してくれました。作 り物の舌でも、絡ませると悦んでもらえるのだと、その時わたしは知りました。  そうやって扱われたのは、はじめてでした。わたしは全てを夫に捧げたかったのです。  やがて――予備のドレスもなくなり、食糧も得られなくなった頃。  夫は、年老いていました。  わたしの姿は、夫と出逢った頃のままでした。 「…子供を残せなくて、すまなかった」  床に伏せた夫は言いました。  違う。あなたが謝ることじゃない。夜の営みを通過しても子宝に恵まれなかったのはわたしに子 供を産む機能がないからであなたの機能は正常だった――悪いのはわたしで――全てわたしで――  心の中で、何度も繰り返しました。  あなたが悪いんじゃない。  悪いのはわたし。  あなたが悪いんじゃない!  悪いのはわたし……!  一人になって、もう随分と時が経ったように思います。  夫の墓も、まもなく崩れてしまうでしょう。  ――"島"の目覚めが、近づいてきている。  目覚めた瞬間、"島"は形を失くしてしまう。  アイリス姉様と、サルビア姉様の意志が、巨人を刺激している。  もうじきです。  わたしには、分かっています。二人の目的は、一つしかありません。  願わくば――リリーお姉様に、先に辿り着いて欲しい。  もう二度と"異性"を愛することは出来ません。わたしを愛してくれる――愛せるのは、この世界 にたった一人。  ――リリーお姉様、ただ一人だけ。  一人になって、"もう一人のわたし"の声が、よく聞こえるようになりました。  "もう一人のわたし"も、かつて同じように、"もう一人のリリーお姉様"に愛されたのでしょうか。 【ドラセナ/了】